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『CURED キュアード』

ゾンビ・パンデミック終焉後の世界
エレン・ペイジ、サム・キーリー、トム・ヴォーン=ローラー、監督・脚本:デイヴィッド・フレイン
2020年9月2日(水) Blu-ray発売

Introduction

 ジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』『ゾンビ』で礎を築いた現代におけるゾンビの概念は、もはやホラー映画の枠を超えてはてしなく増殖し、アクション、ラブ・ストーリー、コメディなどあらゆるジャンルに応用されている。ゾンビを題材にしたTVドラマ、小説、漫画、ゲームのヒット作も次々と生み出され、大真面目な学術研究のテーマとしても扱われるようになった。今なおゾンビは、世界中のクリエイターの創作意欲を刺激してやまないモチーフであり続けている。

 アイルランドの新人監督デヴィッド・フレインが新たに創造した『CURED キュアード』は、ゾンビ・ウイルスのパンデミックが収束した“その後”を描く異色の近未来スリラーである。ウイルスに冒されて無差別に他者を噛み殺すモンスターに豹変したのち、画期的な治療法によって回復した“元”感染者たち。獰猛なゾンビだった頃の悪夢にうなされ、心に傷を負った彼らは、真の人間性を取り戻すことができるのか。元感染者が社会復帰したとき、市民は彼らを受け入れられるのか。これらの幾多の鋭い問いかけを、現在の不穏な世界情勢に照らし合わせて観る者に突きつける衝撃作なのだ。

 人間を凶暴化させる新種の病原体、メイズ・ウイルスのパンデミックによって大混乱に陥ったアイルランド。6年後、治療法が発見されたことで秩序を取り戻し、治療効果が見られない25%の感染者は隔離施設に監禁され、治癒した75%は“回復者”として社会復帰することになった。回復者のひとりである若者セナンは、シングルマザーの義姉アビーのもとに身を寄せるが、回復者を恐れる市民の抗議デモは激しさを増すばかり。やがて理不尽な差別に不満を募らせ、過激化した回復者のグループは社会への復讐テロを計画する。その怒りと憎しみの連鎖はセナンやアビー親子を巻き込み、新たな恐怖のパンデミックを招き寄せるのだった……。

 感染系ゾンビがもたらした終末的厄災の“その後”を描いた作品には、『28日後...』の続編『28週後...』などいくつかの前例があるが、自作のオリジナル脚本で鮮烈な長編デビューを飾ったフレイン監督は、人種差別、宗教対立、移民問題などによって分断された現代社会の状況を生々しく反映。さらに元感染者=回復者がゾンビだったときの忌まわしい記憶を保ち、耐えがたいPTSDに苛まれている設定を加え、限りなくシリアスにしてリアルなホラー映画を完成させた。不寛容な社会で行き場を失っていく登場人物たちの苦悩に満ちたサバイバル・ドラマ、そして凄まじい緊迫感がみなぎるクライマックスのディザスター・パニックからひとときも目が離せない。

 ジャーナリストでシングルマザーのアビーに扮するのは、『JUNO/ジュノ』『インセプション』『X-MEN:フューチャー&パスト』のエレン・ペイジ。ゾンビに夫を噛み殺された失意のどん底の中で幼い息子を養い、回復者の義弟セナンを受け入れるアビーの揺れる心情を繊細に表現するとともに、プロデューサー兼任でこのプロジェクトを牽引した。そして『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』のサム・キーリー、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のエボニー・マウ役で知られるトム・ヴォーン=ローラー、TVリーズ「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」のポーラ・マルコムソンなど、アイルランドとイギリスの実力派キャストが迫真の演技を披露している。

Story

 感染した者を凶暴化させるメイズ・ウイルスという新種の病原体が蔓延した近未来のヨーロッパ。なかでもアイルランドの被害状況は壊滅的だったが、パンデミック発生から数年後、治療法が発見されたことで社会はようやく秩序を取り戻した。感染者のうち治癒した75%は“回復者”と認定され、治療効果が見られない残りの25%は軍が厳重に管理する隔離施設に収容されている。回復者のひとりである若者セナン(サム・キーリー)は社会復帰の日を迎えるが、街では彼らを恐れる市民が激しい抗議デモを行っていた。

 セナンの身元引受人は、ジャーナリストである義理の姉アビー(エレン・ペイジ)だった。感染パニックのさなかに夫のルークを殺されたアビーは、深い喪失感に囚われながらもセナンを優しく迎え入れ、幼い息子のキリアンと対面させる。一方、感染者だったときのおぞましい記憶のフラッシュに苦しむセナンは、ルークが死亡した際の残酷な真実をアビーに打ち明けられず、その罪悪感に苛まれていた。

 それでもセナンは新たな人生を踏み出すため、医師のライアンズ博士(ポーラ・マルコムソン)の助手として働き始める。収容中の感染者たちを安楽死させようとしている政府の方針に反対するライアンズは、隔離施設にこもって彼らを救うための新たな治療法の研究に没頭していた。

 その頃、街では回復者を怪物と見なし、排除をもくろむ強硬派の市民による襲撃事件が続発していた。身の危険を感じた回復者のグループは密かに集会を催し、自分たちを虐げる社会への不満をぶちまけ合う。セナンを受け入れたアビーの自宅も差別的な嫌がらせの落書きをされた。

 回復者同盟のリーダーは元弁護士のコナー(トム・ヴォーン=ローラー)だ。隔離施設で行動を共にしたセナンに特別な友情を抱いているコナーは、彼を執拗なまでに同盟に引き入れようとする。コナーへの恩義ゆえに一度は同盟に加わるセナンだったが、アビーやキリアンとの触れ合いにかけがえのない家族の温もりを感じた彼は、危険な過激思想に染まったコナーとの決別を選択する。それはコナーにとって許しがたい裏切り行為だった。

 やがて社会への復讐テロを計画した回復者同盟のメンバーは、職員に成りすまして隔離施設に侵入し、兵士たちを次々と殺害していく。檻から解き放たれ、たちまち街にあふれ出した感染者の群れは、猛然と市民に襲いかかった。再び勃発した阿鼻叫喚のパニックのなか、「あの子を捜して!」というアビーの悲痛な叫びを耳にしたセナンは、キリアンが通う学校へと向かう。しかし、その行く手には無数に沸き起こる感染者のみならず、セナンへの憎しみを募らせて狂気に駆られたコナーが立ちはだかるのだった……。

Director

 映画製作者としての私の情熱は、常に気の利いたジャンル映画を作ることにあった。ゾンビものに病的なくらい魅せられていたんだ。現代の問題を、最高の状態で見事に反映することのできるジャンルだからだ。そんなゾンビ感染に治療法があったらと考え始めたら、止まらなくなった。治るという状況は、元ゾンビにとってどんなものになるだろう?

 治癒しても感染していた頃の行いの記憶に悩まされるという概念は、恐ろしく、とりわけ悲痛なものだった。その思いは私の心の中で渦巻き続けた。家族は元ゾンビを受け入れるだろうか? 本当にまた人間になれるのか? 登場人物を造形し、それを基盤にして『CURED キュアード』の世界を作った。

 私はヨーロッパ中に救済措置と抗議が広がっていた頃、この脚本を書き始めた。当時も存在し、今でも残る激しい怒りの空気が私の執筆を焚きつけた。あれは自分には手に負えないことによって苦しめられ、責任を取らされるということに他ならず、それは本作の元ゾンビたちとまったく同じだった。彼らの行動に対する責任と罪はどこにあるのか。そして、記憶に取り憑かれている本人にとって、そんなことは本当に重要なのだろうか?

 また、私はメディアや政治家が自らの目的のため、いかに人々の恐怖心を煽るかにも興味を抱いた。その恐怖の対象が移民、宗教、ジカ熱など、いずれであっても。そうした行為は怒りと分裂の雰囲気を作り出し、どんな病気よりもはるかに有害だ。このように恐怖を誇張する行為が『CURED キュアード』の世界の基礎を築いている。

 私にとって最高のジャンル映画は、中心となる見事なキャラクターが際立ったものだ。『エイリアン』『永遠のこどもたち』『ぼくのエリ 200歳の少女』『トゥモロー・ワールド』のような映画だ。私はこうした映画を作りたいという野望をずっと抱いていた。私たちが暮らす世界を常に反映しながら、緊張感のあるジャンル作品でもある映画だ。

 要するに『CURED キュアード』は恐怖についての話だ。感染した者の恐怖や感染する恐怖だけではない。自分の中にある恐怖、すなわちそれは恐怖に苛まれる中での自分たちの無力さによる恐怖なのだ。

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで映画研究の修士号を取得したのち、ティルト・ピクチャーズを共同設立。2008年から数本の短編映画を手がけており、そのうち『Passing』(10)ではコーク国際映画祭で観客賞を受賞した。2012年にビンガー・フィルム・ラボで『CURED キュアード』の脚本を執筆し、エディンバラ国際映画祭ラボでベスト・ストーリー・ピッチに輝く。その後、アイルランド映画委員会の支援を受け、『CURED キュアード』の前日談となる7分の短編『The First Wave』(14)を完成。同作品が複数の国際的な資金提供者の目にとまり、長編デビューを果たした。現在、2本目の長編となる新作『Beards』を準備中。

Cast

エレン・ペイジ

 1987年、カナダ・ハリファックス生まれ。母国のTVムービー「Pit Pony」(97)でプロの女優としてのキャリアを踏み出し、『Marion Bridge』(02)で映画デビュー。「赤ずきん」をモチーフにした異色スリラー『ハード キャンディ』(05)と、『X-MEN:ファイナル・デシジョン』(06)のキティ・ブライド役で脚光を浴びた。思いがけず妊娠してしまった16歳の少女をいきいきと演じた『JUNO/ジュノ』(07)では、アカデミー賞主演女優賞、ゴールデン・グローブ賞女優賞(コメディ/ミュージカル部門)などにノミネートされ、インディペンデント・スピリット賞主演女優賞を受賞している。その後は『ローラーガールズ・ダイアリー』(10)、『ローマでアモーレ』(12)、『ザ・イースト』(13)、『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)などの多彩なジャンルで個性を発揮。近年はプロデューサー業にも進出しており、『元感染者』でも製作を兼任している。そのほかの主な出演作は『アメリカン・クライム』(07・未)、『賢く生きる恋のレシピ』(08・未)、『スーパー!』(10)、『サイコ リバース』(10・未)、『スイッチ・オフ』(15)、『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)、『タルーラ ~彼女たちの事情~』(16・未)、NetflixのTVシリーズ「アンブレラ・アカデミー」(19)、同じく「メアリー・アン・シングルトンの物語」(19)など。

サム・キーリー(セナン)

 アイルランド・タラモア生まれ。TVシリーズ「Misfits」「Jack Taylor」に出演した2010年に俳優デビュー。パオロ・ソレンティーノ監督作品『きっと ここが帰る場所』(11)の小さな役を獲得したのち、レニー・アブラハムソン監督作品『リチャードの秘密』(12・未)で重要な役どころを演じた。2012年のTVシリーズ「Raw」でも注目を集めている。その後は製作規模の大きな話題作にも進出し、ブラッドリー・クーパー主演の『二ツ星の料理人』(15)、ロン・ハワード監督、クリス・ヘムズワース主演の『白鯨との闘い』(15)、キリアン・マーフィ主演の『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』(16)に出演。そのほかの主な出演作に『モンスターズ/新種襲来』(14)、『エッジ・オブ・スピード』(16・未)、『ジャドヴィル包囲戦 -6日間の戦い-』(16・未)などがある。

トム・ヴォーン=ローラー(コナー)

 1997年、アイルランド・ダブリン生まれ。ダブリンのトリニティカレッジで演劇研究の学位を取得したのち、ロンドンの王立演劇学校で学んだ。2008年の舞台「ヘンリー五世」でイアン・チャールソン賞を受賞するなど、演劇界で長いキャリアを築き上げている。最近では『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)でスーパーヴィラン、サノスの側近であるエボニー・マウを演じ、鮮烈な印象を残した。そのほか日本に紹介された映画出演作には『潜入者』(15)、『ローズの秘密の頁』(16)があり、主演を務めたクライム・スリラー『メイズ 大脱走』(17)で絶賛を博している。

ポーラ・マルコムソン(ライアンズ博士)

 1970年、北アイルランド・ベルファスト生まれ。キャリアの初期に『トゥームストーン』(93)、『グリーンマイル』(99)、『A.I.』(01)といったハリウッド大作に小さな役で出演。その後は2004年スタートの「デッドウッド 銃とSEXとワイルドタウン」にレギュラー出演したほか、数多くのTVシリーズにゲスト出演している。最近では、2013年スタートの「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」のアビー・ドノヴァン役で好評を博した。そのほかの主な出演作には、ジェニファー・ローレンス扮する主人公カットニスの母親を演じた『ハンガー・ゲーム』シリーズ(12・13・14・15)、『グリーンデイズ』(17・未)、TVムービー「デッドウッド ~決戦のワイルドタウン~」(19)などがある。